1、はじめに
アスベストとKUBOTAについてのビデオを鑑賞し、それに関連したキーワードを元に自分が興味関心を持った論文を読んで、レポートにまとめてみた。まず、アスベストとは石綿「せきめん」または「いしわた」と呼ばれ、天然に産出するケイ酸塩からなる鉱物性繊維の総称である。この繊維をほぐすと木綿や羊毛のようなしなやかさを持ちながら、拡張力、耐摩耗性、断熱、保温性、耐薬品性に優れているため、建築材、工業製品などの多くの分野で使われていた。このアスベストを過去に吸入してしまった人々が今現在も悩み続けていること、そしてまだ発症していない人もたくさんいるということ。そのことを踏まえて私は「中皮腫」と「胸腔鏡」というキーワードから論文を検索した。「鏡腔鏡」を選んだ理由は、私の理想の医師像である卓越した手技を得るために少しでも技術の知識を得たいと思ったからである。
2、キーワード
「中皮腫」と「胸腔鏡」
3、選んだ論文の概略
@胸腔鏡下診断と外科治療 (順天堂医学、2006. 52 p.356-367)
クボタショック以降、わが国において、中皮腫の診療が注目されている。中皮腫は極めて難治性であるが、近年、新しい腫瘍マーカーの開発による早期診断の可能性や、手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療による長期生存の可能性が示されてきた。中皮腫は、主にアスベストの暴露(吸入)が原因で胸膜、腹膜、心膜、精巣髄膜などから発生する。そのなかでも、胸膜中皮腫について取り上げる。胸膜中皮腫は一層の中皮細胞からなる胸膜から発生する悪性腫瘍で、狭い胸腔内を進展した後に、胸水や胸部レントゲン異常陰影(胸膜肥厚像)として発見される。そのため、早期発見することは非常に困難である。また、中皮腫は画像上、胸水や胸膜肥厚を伴う疾患、つまり、肺及び胸膜の慢性炎症性疾患(結核性胸膜炎、炎症性胸膜炎等)や悪性腫瘍(肺癌、胸壁腫瘍等)、石綿関連疾患(胸膜プラーク等)との鑑別が非常に難しい。さらに、病理組織学的にも、多臓器の腺癌の胸膜転移、肉腫様像を呈する腫瘍、上皮様と肉腫様の腫瘍細胞が混在する腫瘍との鑑別が難しい腫瘍である。このため、積極的な胸腔鏡下生検による、胸腔内の観察と十分な組織の採取が早期発見、確定診断率の向上に繋がると期待されている。これまで、胸膜中皮腫に対して様々な治療法が試されてきたが、未だに予後は不良である。中皮腫の治療体系の進歩が肺癌と比較し遅れている理由として、@患者数が少なく、臨床試験を組みにくいこと、A腫瘍の発生、進展が胸腔内であるため、現在の画像診断技術では、早期発見や腫瘍の広がりを正確に判断することが困難であること、B世界共通で、妥当性が評価されたStaging Systemが無いこと、C化学療法に抵抗性であることなどが考えられている。しかし、近年、併用化学療法が予後のQOLを高めることや、胸膜肺全摘術術後に放射線化学療法を加えると五年生存率が40%を超えるといった報告もあり、胸膜中皮腫の外科治療に対する期待は急速に高まりつつある。
胸膜中皮腫の確定診断方法には、一般的な胸腔鏡下生検以外に、胸水細胞診、経皮的針生検、ドレーン孔を用いた胸膜生検があり、いずれも侵襲が少ないという利点がある。全身麻酔下の胸腔鏡下生検では、胸腔内をしっかり観察できるため、肉眼的に疑わしい部位から十分な量の組織を摂取でき、腫瘍の進展も正確に判断できる。実際に、腫瘍に伴う二次的な炎症がある場合は癒着や繊維性被膜などが見られるため、これらを剥離するためにも全身麻酔下の胸腔鏡でないと腫瘍組織に到達できない。全身麻酔下の胸腔鏡下生検の欠点としては、他の診断方法に比べ患者への侵襲が大きい点と、胸壁に腫瘍の播種が生じる可能性が高い点があげられる。しかし、実際は確実な組織学的診断を得ることで予後に合った治療方針を決めることが出来るメリットのほうがはるかに大きく、診断方法の第一選択とされている。
胸膜中皮腫に対する外科治療は、大きく分けて4つの目的で行われる。診断、症状緩和、腫瘍細胞減少及び根治の4つである。症状緩和目的には、開胸もしくは胸腔鏡下に胸膜癒着術や壁側胸膜切除術が行われる。一方、腫瘍細胞減少や根治目的には、胸膜切除や剥皮術、胸膜肺全摘術が行われる。
?胸膜癒着術 Pleurodesis
胸膜中皮腫患者の多くは胸水貯留による呼吸困難の症状を呈する。そのため、胸水コントロールはQOL改善に非常に重要となってくる。胸膜癒着術は壁側胸膜と臓側胸膜を癒着させることで胸腔を減少させ、結果的に胸水貯留を防ぐ方法である。
?壁側胸膜切除術 Parietal pleurectomy
肺が十分に膨らまないため、胸膜癒着術が有効でない場合に多く行われる。開胸後、壁側胸膜と腫瘍を切除し、胸水及びフィブリン滲出物を除去する。しかし、予後の改善はなく、合併症も少ないため、適応となる症例が限られている。
?胸膜切除術/胸膜剥皮術 Pleurectomy/decortication
腫瘍細胞減少や根治を目的として行われる。この術式は、壁側胸膜、臓側胸膜、横隔膜、心膜を除去する。基本的に肺の実質は切除しないため、胸膜肺全摘術に耐えられない患者にも施行可能であり、胸膜肺全摘術よりも術式は容易である。しかし、多くの場合、腫瘍は肺実質に浸潤しているため、早期の症例を除き完全切除は不可能である。予後は、放射線や化学療法を併用しても十分な成績は得られていない。
?胸膜肺全摘術 Extrapleural pneumonectomy
腫瘍細胞減少や根治を目的として行われる。手術手技は片側胸腔内すべての臓器(壁側胸膜、片肺、心膜、横隔膜)を切除し、心膜、横隔膜を人工物または、自家組織で再建することである。片肺を切除するので腫瘍減少効果は大きく、放射線治療もより多く照射できる。しかし、侵襲が極めて大きく、技術的にも難しい手術である。術後の合併症、手術死亡率も高い。予後においては、胸膜肺全摘術のみでは改善は得られず、放射線化学療法を行うことで予後良好になる。現在、この胸膜肺全摘術 と様々な補助療法の組み合わせ治療法がClinical Trialのレベルで行われている。
近年、新しい抗癌剤が開発され、その有効性が証明された。さらに、三者併用療法(手術、放射線治療、化学療法)の有効性や安全性が確立された。しかし、早期発見の困難さ、Stagingの問題、Patient Selection、化学療法に対する抵抗性等は解決されていない。それゆえ、さらなる早期診断法の開発が必要である。今後は、上述の問題を解決しつつ、中皮腫の胸腔内発生という最大の特徴を生かした局所+遠隔制御の治療戦略を企て、他施設共同臨床試験でそれを証明していく必要があるだろう。
A内科的胸腔鏡により診断された悪性胸膜中皮腫の一例 (岩見沢私立総合病院医誌、2002,28-1 p7~11)
悪性胸膜中皮腫は、比較的稀な疾患であり、臨床上しばしば未分化型腺癌との鑑別が問題となる。今回我々は、気管支ファイバースコープを経胸壁的に応用することにより、悪性胸膜中皮腫の診断を得た症例を経験したので報告する。
症例56歳、男性、左大量胸水による呼吸困難のため入院した。胸部CTでは胸水の他、び慢性の胸膜肥厚及び小結節の散在を認めた。胸水細胞診では未分化型腺癌による癌性胸膜炎との鑑別が困難であり、気管支ファイバースコープを用いた胸腔鏡検査を施行した。胸腔鏡では、び慢性の壁側、及び臓側胸膜肥厚と白色結節の散在を認め、同部位からの細胞診により悪性胸膜中皮腫と診断した。
悪性胸膜中皮腫の診断は胸水細胞診のみで可能な例もあるが、一般的には困難であり、生検による組織診断が必須である。本症例では胸水細胞診のおいても悪性中皮腫と反応性中皮細胞との鑑別が困難なことがあり、胸腔鏡検査を必要とした。今回我々が施行した胸腔鏡は、気管支ファイバースコープを、自発呼吸下で局所麻酔にて胸腔ドレーン挿入孔から無菌的に挿入する方法である。この方法は従来の胸腔鏡に比べて侵襲が少なく、コープ針を用いた盲目的な胸膜生検と異なり、胸膜の病変部位を直視下に観察しながら生検できるため、的確で安全な方法といえる。悪性胸膜中皮腫の免疫組織診断に有用なマーカーとしては、抗中皮抗体である。この抗体が陽性であったことから確定診断できた。しかしながら、治療については、すでに進行期であったことから化学療法を施行したが、奏功しなかった。そもそも、悪性胸膜中皮腫の病期分類自体が統一されておらず、長期生存例は早期のうちに外科的切除しえた例の限られているのが現状である。その意味でも早期発見が重要であり、胸腔鏡の有用性が示唆された。
4、選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えた事を、将来医師になる目で捉えた考察とまとめ
この2つの論文を読んで理解したのが、悪性胸膜中皮腫はまだ症例が少なく病期分類や臨床試験が不完全で、狭い胸腔の病変を早期発見、確定診断することは非常に困難であること。現段階で確定診断に最も効果が高いのは胸腔鏡であり、発見された時に多く見られる進行期の悪性胸膜中皮腫に対して最も有用な外科的治療は胸膜肺全摘術である。その際に、三者併用療法(手術、放射線治療、化学療法)を用いることが現段階での最も有効な治療法である。しかし、まだまだ解決すべき問題がいくつもあり、五年生存率が一番高くて40%しかないという難病であることが分かった。
論文では悪性中皮腫のことばかり調べたが、ビデオでは、大手機械メーカーのクボタがアスベスト(石綿)を使って水道管を製造していた
この、アスベストによる悪性中皮腫問題は課題が山積になっている。社会的にも医学的にも問題だらけで、公害の恐ろしさを知ることが出来たと同時に公衆衛生の重要性が理解できた。
現段階で最善の治療をしても、患者さんの命を救えないということは医師として最大の苦しみだと思う。しかし、現実に治せない原因不明の病気はたくさんある。そんな現実に直面したときの無力感を先輩医師達はどうやって克服しているのだろう。世間から、または医師から、卓越した手技を持つ医師と呼ばれている医師たちはそういった苦しみを克服したからそう呼ばれているのだろうか。今回のレポート作成に当たっての悪性中皮腫問題は、そんな疑問を私に投げかけてきたように思う。